レッスン 3

あらゆる業界に浸透するモバイルアプリ

今はまだ、モバイル中心経済の黎明期にすぎません。しかし多くの業界が、自社のビジネスをアプリ市場に適応させる方法をすでに見出しています。現在、ゲームアプリとメッセージアプリが世界中で非常に多くのユーザーを惹き付け目を見張るほどの収益を上げています。また、他の業界もアプリの分野に参入する必要性を次第に認識するようになり、急速に力をつけています。

このレッスンでは、まずモバイルゲームについて見ていきましょう。その理由は、モバイルへの移行によって利益を上げることに成功した初めての業界だからです。また、小売、銀行、動画ストリーミングの各アプリについても見ていきます。この4つの業界例は、戦略がそれぞれ異なる業界でもモバイルアプリを活用できることを示しています。各業界は、アプリの独自のメリットを活用することで、ビジネスチャンスを生み出して価値の高い新規ユーザーにリーチする方法を見出しました。ただし、これらの業界だけがアプリ戦略を開発しているわけではありません。B2B企業、旅行、建設、飲食サービスなど、ありとあらゆる業界でアプリは欠かせない要素となっています。

ゲーム:プレイヤーが求めているのは驚くべき新機能

ゲームはアプリ市場で長い歴史を持つリーダーです。戦略ゲーム、カジノ、アドベンチャー、パズル、ロールプレイングゲーム (RPG) など、活発なサブカテゴリーの多さを見るだけでも、この業界がいかに大きいのかがわかります。読者の中でまだモバイルゲームで遊んだ経験がないという方は、少数派と言えるでしょう。

ゲーム分野は、ゲーム中心のパブリッシャーに今も大きなビジネスチャンスをもたらしているだけでなく、あらゆる業界のパブリッシャーに新天地を提供しています。実際、ゲーム業界は多くの面で、アプリや新しいテクノロジーが現在のように普及するための足がかりを築いています。

2016年にモバイル市場に参入したPokémon GOは画期的な成功を収め、プレイヤーやパブリッシャーをはじめとする世界中の人々を驚かせました。何百万人もの人たちが、熱心なポケモントレーナーとなってアプリの拡張現実 (AR) 機能でプレイを楽しみ、本格的な発売からわずか6か月後の2017年初めまでに、ゲームの消費支出は10億ドルという記録的な数字に達しました。Pokemon GOの成功を受けて、今ではあらゆる業界のパブリッシャーが、自社アプリでのARの利用を模索しています。

ARPU:ゲームの重要な指標

ゲームアプリの場合、特に重要な指標はユーザーあたりの平均収益(ARPU)です。世界最大級の市場の一部において、この指標は大幅に伸びています。App Annieの最近の調査によると、すべての分析対象の国の中でも日本は突出しており、日本のトップ30ゲームは米国のトップ30ゲームの2倍以上も効果的にマネタイズしています。日本のトップ30ゲームのうち、RPGのサブカテゴリーに属するアプリの割合は約3分の2と圧倒的です。中国もゲーム分野において巨大市場として台頭しつつあり、トップ30ゲームのARPUは過去2年間で10倍以上に増加しました。

これらの比較的成熟したゲーム市場は、たとえダウンロード数がピークに達した後でも、利用の増加が劇的な収益増につながることを証明しています。

ゲームは広大かつ多様なカテゴリーであり、アプリ市場全体牽引する原動力です。これは、国、サブカテゴリー、ユーザー層によって、測定可能な差異が多数存在することを意味します。

ショッピング&小売:アプリが支出と客足を牽引

服の写真を撮ると、その服を販売している場所への行き方がわかる。店内のQRコードを使って情報や景品を手に入れる。ワンクリックですべてのセール品を見つけ、スマートフォンで購入を完了する。

これらの例はすべて、小売アプリが新しい買い物客を呼び込むとともに、既存客にも自店での購入を継続してもらうために提供する機能として実現しているものです。

最初に、実店舗を広く展開する小売業者のアプリを見ていきましょう。これらの小売業者は、アプリを活用してオンライン戦略とオフライン戦略を組み合わせ、ロイヤルティの高い顧客を獲得しています。これに該当するのは、Walgreens (米国の薬局チェーン)、Target、百貨店のKohl’sなどです。

こうした小売業者の一部は、アプリを活用して実店舗への客足を増やしています。たとえば、Walgreensは処方箋を更新する手間をアプリで劇的に減らしました。ただし、便利さは常に重要だとはいえ、アプリが持つ多くの要素の1つにすぎません。

百貨店のKohl'sは、より多くのユーザーにアプリをダウンロードして利用してもらうために、洗練されたポイント還元プログラムを展開し、高い評価を得ています。実際、同社のアプリは成果を出しています。Kohl’s Pay機能により、QRコードがレジでスキャンされて、割引が自動的に適用されます。ユーザーはまた、複数のウィッシュリストの作成、還元ポイントの獲得、返品や交換の追跡もできます。

一方、オンラインファーストの小売業者はたいてい、自社アプリを通じて巨大なマーケットプレイスを用意し、割引価格と迅速な出荷を提供しています。Amazonはこの分野で世界をリードする企業ですが、最近は実店舗での小売にも進出しています。他の例としては、ショッピングディスカウントアプリのWishやクラフトマーケットプレイスのEtsyなどがあります。

米国でショッピングアプリに費やされる時間は、2017年第1四半期に記録を更新し、Androidフォンで前年同期比20%増となりました。一方、世界のモバイル小売による売上は2016年に2,200億ドルに達し、2015年から53%伸びました。これら2つの統計値が示しているのは、顧客がアプリ内から商品を閲覧して買い物をすることにますます慣れてきたという事実です。

言い換えると、ユーザーにリーチし維持するための適切なアプリ戦略を実施する小売業者なら、熱心な顧客を大勢確保できるということです。

リテールバンキング:モバイルで利用できるバンキング機能

当然のことながら、アプリユーザーはリテールバンキングアプリを選ぶ際、多くの機能を求めます。最寄りの支店やATMをすぐに見つけられる?OK。口座の入出金に関するアップデートやアラートを速やかに受け取れる?もちろん。アプリ決済サービスと、シームレスで使いやすいユーザーインターフェースを備えている?これも万全。

バンキングアプリは、消費者のニーズに合わせて進化を続けるなか、記録的なレベルのエンゲージメントも達成しています。おそらくこうした理由により、リテールバンキングアプリのダウンロード数と使用が過去2年間ほどで急増し、消費者が銀行を選択し利用する方法を変革するまでに至ったと考えられます。

たとえば、2016年11月には、iPhoneとAndroidフォンを合計した米国のトップ10リテールバンキングアプリ全体で、過去最高の平均MAU (月間アクティブユーザー) を達成しています。

簡単に言えば、リテールバンキングアプリを使う人が過去最大になったことで、アプリが顧客による銀行サービスの選択と利用のあり方に影響を与えているのです。

Wells Fargoは現在、ユーザーがモバイルアプリ上で生成されたワンタイムパスワードを使用し、ATMから預金を引き出せるようにしています。こうしたサービスは、ユーザーのスマートフォンが決済の主要手段となるなか、物理的なデビットカードから離れる動きの先駆けと言えるでしょう。Wells Fargo Mobileは、大手金融機関がカードを使わない「タップ&ペイ」方式のATM利用を可能にする最初のアプリの1つです。

ただし、既存ユーザーを維持しつつ新規ユーザーを引き付けるには、まだ改善の余地があります。App Annieがリテールバンキングレポートで明らかにしたように、リテールバンクから提供さる顧客体験はますますモバイルアプリによって決まるようになっています。一部の顧客は、モバイルバンキング体験の質に基づいて、特定の銀行を選択したり解約したりしています。

多くのユーザーにとって、アプリは銀行との唯一の接点です。モバイル専用バンクの出現は、新興企業がそうした状況を利用していることを示しています。リテールバンクは自社のモバイル機能を慎重に評価する必要があります。そうでなければ、競合するフィンテック企業に追い越されてしまうでしょう。

動画ストリーミングアプリ:スマートフォンの画面で楽しむ動画

ユーザーはもはや、テレビで視聴する必要はありません。モバイルデバイスなら、どこでもコンテンツを利用できます。有料コンテンツ(スポーツアプリとライブストリーミングアプリを含む)がユーザー数とエンゲージメントの両面で成長するなか、動画ストリーミングは2016年に堅調な収益増をもたらしました。

実際、米国とイギリス、中国において、iOS App Storeのトップ3ストリーミングアプリは2016年に収益を大幅に伸ばしています。米国の場合、iOS App Storeの収益は、2015年の8,500万ドルから2016年の2億1,000万ドルへと2倍以上に増加しました。

こうした動画ストリーミングアプリの収益増は、アプリ内購入を使ってサブスクリプションサービスを決済したいという消費者の意向を示しています。アプリストア外部のサービスについて決済のオプションを提示された場合でも (例:ストリーミングサービスのウェブサイトにおけるクレジットカード決済)、多くのユーザーは利便性からアプリ内購入を好みます。

NetflixHuluBBCiQIYIは、高品質なオリジナルコンテンツを大量に提供して、このカテゴリーをリードしています。モバイル動画ストリーミングは世界中でトレンドとなっており、特に成熟したアプリ市場において顕著です。

今後もコンテンツが一番大切なことは明らかとはいえ、メディア企業にとっての重要な教訓は、モバイルによりパワーバランスがユーザーに有利なほうへ確実に傾いたということです。非常に多くの選択肢が存在する状況で、ユーザーは質の高いコンテンツだけでなく、完璧なストリーミング体験といつでもどこでも視聴できる利便性を期待しています。

Facebook1日あたりの平均動画再生回数は、わずか6か月間で40億回から80億回へと倍増しました。マーク・ザッカーバーグ氏は、同社が最も重視するのは動画であると繰り返し強調し、ユーザーを維持しエンゲージすることに関して、動画コンテンツの重要性をどれほど認識しているかを示してきました。

動画コンテンツはまた、広告収益を得る優れた方法でもあります。これについては、「マネタイズ」の回で詳しく説明します。

娯楽のニーズを満たすためにモバイルに移行する消費者が増えているので、企業が広告費をモバイルに投入することは理にかなっています。HBOのように長年ケーブルテレビ放送を提供してきた企業も、モバイルを本格的に活用して大きな成果を上げています。

ライブストリーミングのスポーツとエンターテイメント

「アポイントメントTV」のアイデアは、ライブストリーミングのアプリとサービスの使用を促進しています。なぜなら、ユーザーは、リアルタイムで起きているアクションをその瞬間に視聴したいからです。視聴者がモバイルビデオの視聴にますます慣れつつある現在、アプリ経由のライブストリーミングは大きな成長が見込まれる分野です。

スポーツイベント (特にプレーオフシーズン中) やライブエンターテイメントイベントは、アプリ開発会社に大きな機会と試練をもたらします。たとえば、2017年アカデミー賞では、いくつかの新しいアプリがライブテレビ体験を拡張し、より多くの写真とライブ解説を追加しました。iOS App StoreとGoogle Playの両方が、(多数の) アワードシーズンアプリのプロモーションを行う機能を実装しました。

同様に、MLB.com At BatNFL Mobileといったトップスポーツアプリは、イベント中にライブ動画と解説を提供しています。スポーツファンはその瞬間のコンテンツを求めており、ライブストリーミング動画を提供するアプリは特に人気です。

あらゆる企業がアプリビジネスに参入

世界がアプリへの依存度を増すなか、アプリはあらゆる業界に深く浸透しています。ゲーム、小売、バンキング、動画は、顕著な成長を遂げている多くのカテゴリーの一部にすぎません。

今は空腹を感じたら、まずアプリを立ち上げて、足を運ぶレストランや電話で注文するデリバリー店を決める時代です。賢い消費者は、お気に入りの自動車相乗りアプリで確保した車の後部座席で、夢のような休暇のチケットを予約します。消費者の毎日の生活は、多様なアプリの同期的なエンゲージメントによってますます特徴付けられるようになっています。仕事であれ日常の用事であれ、アプリの力を借りれば、以前にも増してより短時間で、より良く、より簡単に達成できるようになるでしょう。

もちろん、アプリの人気が重要になってくるのは、自社のビジネスに合致するアプリを開発できる場合に限られます。「戦略立案」の回では、どうしたらアプリの開発を自社のビジネス目標に対応させることができるかについて分析していきます。

学習を続ける

次のレッスンでは、大規模なアプリ市場から効果的なアプリ戦略を構築することに視点を移行し、戦略立案について学びます。

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